【出展者インタビュー】技術で身体の壁を越える。「超人スポーツ」が目指す、誰もがフラットに輝ける未来
スポーツというと、限られたアスリートが運動能力を競い合うもの、というイメージを持つ人が多いかもしれません。
「ちょっと先のおもしろい未来(ちょもろー)2026」に出展する「超人スポーツプロジェクト」は、スポーツを単に能力を競う道具ではなく、年齢や障害、身体的差異といった壁を乗り越え、誰もが自由に競い合える場として捉え、その可能性を広げる活動を行っているプロジェクトです。
人間の身体能力を補ったり広げたりする技術(人間拡張技術)を使った新しい競技の開発や、誰でもスポーツを自作できる環境づくりを通して、テクノロジーによって誰もがフラットにスポーツを楽しめる機会を提供しています。
今回は、なぜテクノロジーで身体を拡張する活動を始めたのか、新しい競技が生まれる仕組み、そして障害による有利・不利をなくしたどのような未来を目指しているのかについて伺いました。
活動を始めたきっかけは何ですか?
――「テクノロジーで身体や感覚を拡張し、誰もが楽しめるスポーツを創る」という理念で活動されているとのことですが、この活動を始められたきっかけや原点を教えてください。――
私たちの活動の基盤となっている「超人スポーツプロジェクト」は、東京オリンピック・パラリンピックを一つの焦点とした2014年〜2015年頃に、「誰もが楽しめる新しいスポーツ」の実現を目指して始動しました。
当時、共同代表として活動していた現東京大学の稲見教授や、中村伊知哉iU学長らが中心となり、「僕らでもオリンピックやパラリンピックの選手のような超人になれるスポーツ(=超人スポーツ)」の活動が始まります。
このプロジェクトの根底には、ロボット工学やセンサー技術などの「人間拡張技術(人間の身体や感覚を広げるテクノロジー)」を用いて、人間の身体能力を補完・拡張するというビジョンがあります。これにより、年齢、障害、身体的差異といった物理的な壁を乗り越え、誰もが「超人」として自由に競い合える包摂的な競技環境を構築することを目指しています。
新しい競技はどのように生まれるのですか?
―― これまで数多くの競技を生み出してこられたとのことですが、新しい競技はどのようにして生まれるのでしょうか。――
新しい競技が生まれるプロセスにおいて、私たちは一部の専門家だけで開発を独占するのではなく、さまざまな人がスポーツを「創る」ことそのものに参加できる仕組みを大切にしています。私たちはこれを「スポーツクリエイション(スポーツを創り出すこと)」と呼んでいます。
その大きな原動力となっているのが、プロジェクトが始まって間もない2015年頃から、現慶應義塾大学大学院の南澤教授らの発案によって始まった「超人スポーツハッカソン」です。
これは、技術者やデザイナー、アーティスト、さらには実際にプレイするアスリートなど、全く異なる知識や背景を持つ人々が集まる開発イベントです。
「超人スポーツをつくる」というアイデアを出し合い、試作品の作成から実際のテストプレイまでを、わずか数日間の短い期間で一気に駆け抜けます。
この熱気あふれる共同開発の場から、初期の超人スポーツを引っ張ってきた数多くのユニークな競技が誕生しました。
さらに、「自分には専門知識がないからスポーツなんて作れない」というハードルを劇的に下げ、もっと多くの人を巻き込むために進めているのが「超人スポーツDIY」という取り組みです。これまでは機械やプログラムの専門知識が不可欠でしたが、今では手軽に使える電子部品や生成AIなどを組み合わせることで、誰でも短い時間で新しいスポーツを作れる環境が整ってきました。これにより、地域のイベントや学校の教育現場などで、参加者たちが自分たちの体の特徴や場所に合わせて「自分たちだけのオリジナル競技」を作れるようになり、スポーツを「遊ぶ」だけでなく「ゼロから創る」という楽しさがみんなのものになり始めています。
また、自分たちで新しく創るだけでなく、世の中にある素晴らしいスポーツを仲間として迎え入れる「認定審査制度」も、競技の種類を増やす強力なエンジンになっています。私たちの「テクノロジーで身体を拡張し、誰もが対等に楽しめる場を作る」という理念に共感してくれる他社や別団体が作った競技を審査し、公式に認定する仕組みです。例えば、AR(拡張現実)の技術を使ってエナジーボールを放ち合う「HADO(ハドー)」や、センサー付きの安全な刀で戦う次世代チャンバラ「SASSEN(サッセン)」など、現在では40種類以上のバラエティ豊かな競技が認定されています。これらの競技は「超人スポーツゲームズ」といった大規模なイベントで一緒に披露され、新しいスポーツ文化を共に形作る大切なパートナーとなっています。
このように、「みんなでアイデアを出し合って創るハッカソン」「誰でも手軽に作れるDIY」、そして「世の中の優れたスポーツを認めて広げる認定制度」がスムーズに連動することで、常に新しい競技が生まれ、誰もが楽しめるスポーツの輪がどんどん広がり続ける環境ができあがっています。
どのような未来を目指しているのですか?
―― 超人スポーツの目指す「ちょっと先のおもしろい未来」とはどういったものなのでしょうか。――
私たちが一番に考えているのは、障害があるかないかによって生まれてしまう「有利・不利」から完全に抜け出し、そんな違い自体を「どうでもいい」ことにしたい、ということです。
これまでのスポーツでは、ルールや環境を「障害のある人」か「ない人」のどちらかのコンディションに合わせる必要がありました。
しかし超人スポーツでは、どちらかに合わせるのではなく、テクノロジーと競技のルール作りの工夫によって、最初から全員が同じラインに立って対等に遊べる世界を目指しています。
それこそが、超人スポーツが活動の先に見据えている「ちょっと先のおもしろい未来」の姿です。
テクノロジーによって、誰もが楽しめるスポーツの輪が広がる場所へ
スポーツの未来というと、一般的には身体能力の極限や勝敗の行方が語られることが多いかもしれません。
けれど今回のお話から見えてきたのは、テクノロジーによって身体の違いを乗り越え、すべての人が対等に、そしてフラットに輝ける未来のスポーツの姿でした。
ロボット工学やセンサー技術で身体を拡張し、誰もが「超人」として同じ地平に立つ。
単に与えられたルールで遊ぶだけでなく、自分たちの特性に合わせてスポーツを「創る」ことそのものを楽しむ。
そんな関わり方の中にこそ、誰もが物理的な壁を乗り越えて繋がれる、新しいスポーツ文化の可能性があるのかもしれません。
障害の有無が成り立たない環境をつくる。
その未来は決して遠い夢物語ではなく、熱量ある共創の場から、すでに少しずつ動き始めています。