【出展者インタビュー】社会と共に未来をデザインするKMD
みなさんは「大学院の研究」と聞いて、どのような光景を思い浮かべるでしょうか 。多くの人は、静かな研究室に閉じこもり、ひたすら分厚い論文を執筆している姿をイメージするかもしれません。
一方で、大学院の研究には、研究室の外へ飛び出し、現場と関わることで新たな価値を生み出す側面があります。
今回お話を伺ったのは、イベント「ちょもろー」の出展者である慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(以下、KMD)。活動の核となる「リアルプロジェクト」に込められた思いや、研究の先に見据える未来のビジョンについて伺いました。
見えてきたのは、技術を開発するだけではなく、人々との対話を通じて未来をデザインしていく研究の姿でした。
企業や自治体との「共創プロジェクト」にこだわるのはなぜですか?
――KMDでは、企業や自治体など多様なパートナーとの共創を教育・研究の中心に据え、成果を社会に届けることを強く大切にされていますよね。そこには、どのような思いを込めていらっしゃるのでしょうか。――
私たちは、研究は論文を書いて終わるものではないと考えています。実際に社会の中で試し、人々に使ってもらい、そこで得られた学びを次の研究へとつなげていきます。その循環こそが、本当に大切なのです。
そのため、企業や自治体、市民、コミュニティといった多様なパートナーとの共創を教育・研究の中心に据えているのです。
なぜなら、どれほど頭を悩ませても、研究室の中だけでは決して気づけない課題や価値観が数多く存在するからです。
そのため私たちは、実際の現場に直接赴き、人々と対話を重ねながら、プロトタイプ(試作品)を実践し、その反応やフィードバックを真摯に研究へと持ち帰ります。
この地道なプロセスを愚直に繰り返すことによって初めて、人々の暮らしに役立つ本物のイノベーションが生まれます。KMDが掲げている「リアルプロジェクト」という取り組みは、まさにこの実践的な考え方をそのまま体現した場にほかなりません。
研究成果を社会へ届けるということは、私たちが一方的に研究成果を発信するだけではありません。広く公開することで、今度は現場や人々から「新たな問い」を受け取ります。それらの問いをもとに、これからの未来のあり方を多様な人々と共にデザインしていく、それこそが極めて大切なプロセスであると考えています。
単に成果を褒めてもらうためではなく、未来を共に創り出すための対話を始めるために、私たちは多様な人々との共創にこだわり続けています。
現在KMDでは、どのようなプロジェクトが進められているのでしょうか?
――実践を重ねるKMDですが、現在は具体的にどのようなプロジェクトが動いているのでしょうか。それぞれの研究領域について教えてください。――
KMDでは現在、13のリアルプロジェクトを軸にして、極めて多様な分野で研究を進めています。
例えば、感覚やテクノロジーの最先端を行く「身体性メディア」の分野では、VR(バーチャルリアリティ)やハプティクス(触覚技術)、サイバネティック・アバターといった先端技術を駆使しています。これらを活用することで、人間の持つ身体や感覚を拡張する新しいコミュニケーションのあり方を模索する研究を行っています。
しかし、KMDのフィールドはそれだけにとどまりません。AIやデータを活用した創造活動や新しいメディア表現の探求、持続可能な社会を目指すデザイン、地域や文化資源を活かした新しいコミュニティづくり、さらにはクリエイティブ産業やネットワークメディアの研究にいたるまで、そのテーマは非常に幅広いのが特徴です。
一見すると分野はさまざまですが、どのプロジェクトにも共通しているのは、最新の技術そのものを目的としていないということです。
私たちに共通しているのは、「その技術を使って、人や社会をどう豊かにできるか」という問いを常に大切にしていることです。その問いを軸に、企業や自治体、海外機関とも密接に連携しながら、現場で検証を重ね、新しい価値の創出へと挑戦し続けています。
技術の高度さを競うのではなく、それが人の暮らしや社会をどう変えるかという本質的な価値を、私たちは追い求めています。
展示の場である「KMD Forum」は、研究にどのような影響を与えていますか?
――年に一度、研究成果を一般に公開する「KMD Forum」が開催されていますが、来場者の方に展示を見てもらうことは、研究そのものにどのような影響を与えていると感じますか。――
私たちにとってKMD Forumは、研究成果を紹介する場であると同時に、研究をさらに発展させ、ブラッシュアップしていくための貴重な「対話の場」だと位置づけています。
KMD Forumの展示会場には、普段から連携している企業の方や自治体の担当者、第一線の研究者だけが来るわけではありません。未来を担う高校生や、一般の来場者まで、幅広い方々が足を運んでくださいます。そうした多様な人々から、率直な意見や疑問をいただくのです。
その対話の中でいただく言葉には、研究者自身が気づいていなかった切実な社会的ニーズや、思いもよらなかった新たな活用方法、あるいは真摯に改善すべきポイントなどが数多く含まれています。
実際に、このKMD Forumでの出会いや対話をきっかけに、新しい共同研究が立ち上がったり、実証実験へと発展したりするケースも少なくありません。それだけでなく、来場者との対話によって得た気づきから、研究テーマそのものの方向性を見直すこともあります。
つまりKMD Forumは、完成した成果を披露する場というより、社会と研究が出会い、そこから新しい共創が始まるスタートラインのような場所なのです。多様な視点を取り込みながら、研究をより本物へと磨き上げていくための、研究者にとっても、かけがえのない機会となっています。
社会と研究が出会い、共創の未来が動き出す場所へ
研究室の中だけで完結するのではなく、現場へ飛び込み、多様な人々との対話を通して新たな価値を生み出していく。今回の取材を通して見えてきたのは、そんなKMDの研究に対する一貫した姿勢でした。
研究成果を社会へ届け、そこで生まれた新たな問いを次の研究へとつなげていく。「その技術を使って、人や社会をどう豊かにできるか」という問いに向き合い続ける姿勢こそが、KMDの「リアルプロジェクト」の本質です。
「大学院の研究」と聞いて思い浮かべる光景は、もう研究室の中だけではありません。論文を書くことをゴールにするのではなく、社会との対話を通じて新たな問いを受け取り、未来を共にデザインしていく。それこそが、KMDが実践する研究の姿でした。